PRUG96βシステムを利用した広域ネットワークの構築
関西地区での実験(2)

水島 章広 (JA3VAP)

概要

 アマチュア無線を利用した高速データ通信システムの可能性を検討するため、関西地区で開始されたプロジェクト『広域ネットワーク構築』につき本年5月の「京都ミーティング」にて概要と経過報告をおこなった。
 このプロジェクトは、手段としてPRUG96システムを利用し、山岳・湖沼・盆地の多い関西地方においてアマチュア無線の広域ネットワークを構築するものである。
 本報ではこのプロジェクトのその後の経過と今後の予定を述べる。

1. 実験の目的

京都ミーティングの発表と重複するが再掲しておく。

1.実用的な広域ネットワークを構築
することにより、実装方法、利用
方法などについて、以下のような
特性や問題点を明らかにし、解決
を図る。
   長距離伝送
   伝搬特性
   隠れ端末問題
   システムの耐候性など実装方法について
   無人局でのメンテナンス性
   移動局を含む場合の挙動
   防災関連への応用などアプリケーション面
   他のデータ通信システムとの連係
   さらなる広域ネットワークの構築
   その他
2.広域ネットワークの構築を通じて、種々
の技術を持つグループ・個人の交流を図
る。
3.最終的にパーマネントな広域ネット
ワークの構築を目指し、アマチュア無
線のインフラストラクチャーとする。

2. 実験の進めかた

第一段階
○システムのテスト
 PC−UNIX,APFSルータ,IPSMなどのセットアップと室内実験
第二段階
○実験局設置場所の候補地選定
 山上局(複数の場合は相互に通信可能となること)
 ゲートウェー局(山上局1〜2局と通信可能であること)
 クライアント局(山上局と通信可能であること)
第三段階
○山上局用システムの製作・設置
第四段階
○通信実験
第五段階
○システムの拡大
 現在は、第二・第三段階をおこなっており、これらの結果を踏まえ第四段階に入る予定である。また、単に通信実験を行うだけにとどまらず、積極的にデモンストレーションを行い、このプロジェクトに協力していただける人材を集めるよう努めた。

3. 実験経過

前回報告以降の経過を時間を追って述べる。

5月29日〜30日 琵琶湖合宿
関西ハムの祭典に向けて機器の調整を行った。システムのインストールと、CU-SeeMEによる通信ができるようセットアップした

6月5日 オールNECハムフェスティバルでデモ
オールNECハムフェスティバルが比叡山延暦寺で行われ、KDCF(JARL関西地方本部 関西デジタル通信フォーラム)がこれに招かれたので参加した。
システム2セットでWWWとCU-SeeMEを動かすデモを行なった。APFSシステムに興味をもたれた方が多かったように思う。

6月6日 金胎寺無線クラブ理事会
JARL関西地方本部より設置をお願いするという形で、金胎寺無線クラブが管理する鷲峰山レピータ局舎にシステムの設置をお願いした。後日、再度理事会が開催され、正式に設置許可を得た。

6月12〜13日 関西ハムの祭典
関西ハムの祭典にてデモンストレーションを行った。同一フロアに2局の固定局と背負子にシステム一式を積んだ移動局を配置しCU-SeeMEによる通信デモンストレーションを行った。さらに、固定局間でReal Videoによる通信も行なうことができた。また、このプロジェクトのちらし(別紙)を作成して広報を行った。

7月10〜11日 琵琶湖合宿、第1回琵琶湖通信実験
はじめて中距離のデジタル伝送を試みる。

7月17日 鷲峰山清掃奉仕と通信実験

7月17日 KDCF鷲峰山免許申請
鷲峰山レピータ局舎に山上局のシステム設置の承認が得られたので免許申請を行った。

7月31、8月1日 生活と科学フェスティバル(応用物理学会主催)
事前準備7月18日、20日
当日は移動中継を展示

8月20〜22日 ハムフェア
PRUGブースとリンクを試みる

9月11日 Genesys-Pミーティング
今後の実験予定を決定

10月9日11日 第2回琵琶湖通信実験
第一回実験の結果を踏まえ、伝送特性の計測と評価をおこなう。

10月17日  鷲峰山下見
山上局の実装について検討。

10月23日  Genesys-Pミーティング
山上局の実装方法、IPアドレスの割り当てについて、次回の実験についてなどを検討。

4. 実験の成果

1)移動用設備の実装について
 関西ハム祭典、科学と生活のフェスティバルなどで歩行形態移動設備(いわゆる「背負子」または「平成版二宮金次郎」)を実演したが、実装密度を上げると放熱の問題が発生してプロトコルサーバのノートPCがダウンする症状が出た。特に夏季のデモについては今後の課題となる。

2)デジタル通信の特性について
 我々は第一回通信実験でデジタル伝送は容易に実現できると予想していた。滋賀県志賀町のJA3VAP宅を基地局とみたて、山上局設置予定の鷲峰山(距離45Km)、および伊吹山(距離約50Km)などに移動局を分散して伝送を試みたが、いずれも成功していない。
 次に第二回通信実験において極超短波伝送特性の把握に立ち戻り、コーリニア・アンテナとビームアンテナの特性比較をおこない、今後の設置にあたり必要な機器選定の判断材料とした。

5. 今後の展望

1)山上局を設置し、地上局のあいだで定常的な通信をおこない伝搬特性データを採取する。山上局の設置は年内にすませ、冬季にどのような変化が起こるかを知る。
2)山上局システムの稼働を監視し、安定稼働に必要な機器や設置方法の要件を得る。
3)マイクロ波の識者を募る。
4)多くのアマチュアが経験的に伝搬特性を知っている周波数帯での実験をおこなう。
5)一般のFM通信など狭帯域での通信状況を30mw、4MHz帯域のSS通信に置き換えたときの差を知る。

6. まとめ

 一連の実験により、琵琶湖の対岸同士で21Kmを超える距離の通信ができるなど、システム運用について種々のノウハウを蓄積することができた。
 また、山頂局と地上局のように、仰角の大きくなる条件において、山上局でコリニアアンテナを用いた場合とループ八木アンテナを用いた場合のデータを比較し有意な差がえられることを実証することができた。
このプロジェクトは、推進すればするほど、克服すべきテーマが出てきており、その意味で技術的な興味で行う意義は大きい。他方、構築したネットワーク上でどのようなアプリケーションを実行させるかという問題について、今後の論が必要である。更なる多方面の分野のひとが必要と思う。
 さいごに、この広域ネットワークのプロジェクトはKDCFが提案したあとは、Genesys-Pを中心に関西在住メンバーを巻き込んでメンバーの過去からの経験も踏まえて実験の計画策定から実行および評価が推進されている。今後Genesys-P は更に横の繋がりを広げてプロジェクトを推進され、KDCFはネットワーク構築と普及のための環境作りを担う必要がある。

7. 謝辞

本プロジェクト遂行にあたり、PRUG、 JARL関西地方本部、鷲峰山金胎寺無線クラブの皆さんにお礼を申し上げます。